ロウソク(書きかけ)

 ぼくは少しだけ特異な習慣のある国に生まれた。暗いリビングで、ロウソクの火に照らされる甥は1歳だった。1歳の誕生日を祝うそのケーキには39本のロウソクが刺さっている。1歳の甥にはとても吹き消せないので、代わりにぼくがそのロウソクの火を吹き消した。
 ロウソクの火はこれまでの来し方を表している訳ではない。残りの命の長さを表している。ほんの百年ちょっと前まで、この国の多くの人間が40歳で死んでいた。短命の人種で、自然な寿命がそれくらいだった。1歳の誕生日には39本だったロウソクが、2歳の誕生日には38本に、3歳の誕生日には37本になる。そうして1本ずつ減っていったロウソクは、40歳で0本になる。短命ゆえに、常にぼくらは自分があと何年生きられるかを意識しながら生きる必要があったのだ。長い年月を経て混血が進んだ。国民の平均寿命は60歳近くまで延びた。しかし、1歳の誕生日に灯されるロウソクの数が59本になることはなかった。ぼくらは40歳で死ぬ用の生き方だけしか知らなかった。40歳の誕生日になると、親族を全て集め、命の炎が1本もない暗闇の中、自分が死んだあとのことをよく言って話す。ぼくらに用意されていたのはそういう生き方だった。